1/8にオンラインセミナ「サンゴ礁の現在と将来予測」が開催されました!
講師に山野博哉先生(国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター センター長)をお招きしました。 そのセミナー後に受講者のみなさまからたくさんのご感想や質問が寄せられました。 寄せられた質問を講師の山野先生に答えていただきました。ぜひご覧ください!

セミナー概要
オンラインで開催したセミナーには、65名の皆さまにご参加いただきました。 渡邊理事長との対談のあと、山野先生からサンゴ礁の成り立ちと生態系の変化、地形や堆積物、リモートセンシングを用いて調べ、過去から現在、そして未来のサンゴ礁がどのように変化していくのか、これまでに山野先生のご研究で分かってきたこと、そして奄美のサンゴ礁の重要性についてもお話しいただきました。
徳之島の南部に住んでおり、島の方々(とくに大人)にサンゴ礁がどんなところであり、大事にしたいものだという事を知ってほしいと思っています。現在は少しずつですが、小中学校等で海岸の観察会や話をさせていただくようになりました。
- 島民の方々と一緒に楽しくできる保全活動について何か良い事例はご存知ですか?
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保全活動ですが、一つはサンゴの状況のモニタリングだと思います。 奄美群島は熱帯と温帯の中間に位置しているので、サンゴの分布地として面白いところですし、またサンゴがこれから変わっていく重要な場所と考えられます。 圃場整備の問題もあるので農家の方々が悪いわけではないのですが、農地へのグリーンベルトの植栽など、赤土流出を防止する活動も重要だと思います。
養殖したサンゴの移植が各地で行われていますが、クローンである場合や実際にはあまり根付いていないという問題があるなど、否定までは行かずとも色々なご意見を聞きます。
- クローンサンゴの養殖、移植について、山野先生の考えを教えてください。
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サンゴを移植して定着したとしても、その範囲は限られています。 ですので、移植すればすなわちサンゴ礁の生態系が再生されるわけではありません。 ただ植えればいいというものではなく、移植したサンゴがちゃんと定着して育ってくれるかは、環境をよく調べて、サンゴが元いた場所、サンゴが育ちやすい場所などを選定する必要があります。 さらに、そこが再生すると産まれた卵が他の場所にたどり着きやすい場所(幼生供給基地となる場所)など、全体への波及効果も慎重に考えて移植は行うべきだと思います。 親群体を採取してそれを分割すると確かに多様性は下がりますが、現在はサンゴの受精卵を採取して育ててから移植するという方法が確立されつつあり、ある程度の多様性が確保された状態で移植する苗が準備されていると思います。 そうした方法で準備されたものを移植するのが良いと思います。
月1くらい房総半島で潜っているので、図鑑を参考にサンゴを認識してみたいと思います。
- 日本のサンゴが分かる図鑑などはありますか?
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サンゴ図鑑に関しては、無料のものとしては、例えば以下のものがあります。
日本の有藻性イシサンゴ類
pu_3.pdf (nies.go.jp)
モーリシャスの事故について興味がありました。
- 今回の調査は賠償金についての査定にも影響するのでしょうか?
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これに関しては、わからないというのが正直なところです。 査定に関しては、我々の調査とは別のところで進んでいると思います。
水温の上昇により南のサンゴ種が北上しているとのことですが、
- 北上ではなく、もともとの地域で深い方に生息域が移動することはないのでしょうか?
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深い方への生息域の移動はありえると思いますが、どこまでも分布拡大できるわけではありません。 サンゴには光が必要で、水深が大きくなると光が届かなくなるからです。 ただ、最近では、深場(水深40-60mぐらい)でもサンゴがいる場所がみつかってきていて、そこは水温上昇の影響を受けにくいため、そこから卵が産まれて浅いところのサンゴを回復させている可能性が指摘されています。 深場のサンゴについては、アクセスしにくい(ダイビングで行けない)ので、まだ実態がわかっていません。 深場のサンゴの役割やその変化は、今後重要な課題だと思っています。
- 高温に強いサンゴの褐虫藻を、高温により白化しているサンゴに共生させることはむずかしいのでしょうか?
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サンゴが白化することによって高水温に強いタイプの褐虫藻を獲得しているという仮説があります。 この仮説の通りである場合もそうでない場合もあるようで、まだ結論は出ていないと思います。 従って共生させることができるかどうかもまだわかっていない状況だと思います。 移植なども含めサンゴへの介入は必要に応じて行うことを検討することは良いと思いますが、まずは自然界でそうしたことが起こっているかを確かめてから、人工的に共生させるなどの介入を慎重に考えるべきだと思います。